よくわかるピロリ菌:ピロリ菌って何?薬による除菌方法と気になる副作用

よくわかるピロリ菌:ピロリ菌って何? 薬による除菌方法と気になる副作用
胃潰瘍、胃がんを引き起こすと言われるピロリ菌。2016年にはピロリ菌の病原たんぱくが血液経由で全身にまわることが話題になりました。心臓や血液、神経などの病気の原因になっている可能性も指摘されている!(英科学誌サイエンティフィック・リポーツ/yahooニュース)
そんなピロリ菌、いったいどんなものなんでしょうか? ここでは名前の由来からその姿まで、詳しく解説していきます。
Contents
◆ピロリ菌て何? 毒素を吐いて胃壁を破壊・・・その姿の実態とは?
ピロリ菌は人間の胃の中に住んでいる細菌です。この菌が胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因といわれています。1980年代に発見されました。
胃の酸度はpH1~2という強い酸性のため、この中で細菌は生きられないとされてきました。その通りで、実はその酸性度のままではピロリ菌は死滅します。ピロリ菌が活動するのに最適なpHは6~7であり、なんとpH4以下ですでにピロリ菌は死滅することがわかっています。
ではなぜ、ピロリ菌が胃の中で生きられるでしょうか?
それはピロリ菌の持つウレアーゼという酵素に秘密があります。ピロリ菌はこの酵素によって胃の中にある尿素からアンモニアを作り出し、胃酸を中和して、ピロリ菌の周りに中性に近い環境を自力で作り出してしまうのです。だから強酸性の胃の中でも生きていられるというわけです。
ピロリ菌にとっては快適に生きるため行為ですが、胃壁にしてみれば胃酸を中性化=無効化する毒素を排出されているということになります。これが胃粘膜に悪影響を及ぼし胃炎や胃潰瘍を引き起こします。
またピロリ菌は普段は胃粘液の下に入りこんで住みつき、胃酸の攻撃から逃れています。また、十二指腸の粘膜が胃と同じような粘膜に置き換わってしまった場所(胃酸から十二指腸を守るためにこのような変化をする場合があります)でも、ピロリ菌が住みつくこともあります。
これがピロリ菌のイメージ図です。
正式名称はヘリコバクター・ピロリ [Helicobacter pylori] といいます。
へんな名前と感じる方もいるかもしれません。正式名ヘリコバクター・ピロリはHelicobacter pyloriというつづりになります。[helico-] という言葉はギリシャ語の [heliko-] から来た言葉で、「らせん」「旋回」を意味しています。ヘリコプターの「ヘリコ」と同じになります。[bacter] はバクテリア(細菌)を意味しています。
[pylori] は胃の出口(幽門:ゆうもん)をさす「pylorus」から来ており、この菌が胃の幽門部から多く見つかることに由来します。◆先進国では日本だけ高い感染率
ピロリ菌の感染率は国によってずいぶん違います。大まかに言えば、発展途上国で高く、先進国で低くなっています。特に上下水道の普及率の悪い所で高いとされています。 (Graham, D.Y. : Gastroenterol Clin Biol 13 : 84b, 1989 より改変 )
また、同じ国の人でも経済状態によって感染率が変わり、アメリカの白人の調査では年収が高い人の方が低い人よりも感染率が低いという結果が出ています。
そのような中で、実は日本人のピロリ菌感染率は先進国の中で際立って高いというデータがあります。1986年に兵庫医科大学で行われた調査では、調査時40歳以上では「発展途上国型(つまり高い感染率)」、40歳以下では「先進国型」の感染率を示しています。これは、当時40歳以上の方は戦後の衛生状態が悪い時代に生まれ育ったため、このような高い感染率を示したと考えられています。1998年の調査ではそのグラフが右に移動した形になっており、日本でも、衛生状態の良い環境に育った若い人たちの感染率は低くなっていることが示されています。
◆ピロリ菌感染の診断法は?
まずは、ピロリ菌を持っているかどうかの検査から入ります。ピロリ菌感染の診断の確定には上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行う必要があります。胃カメラを行い、症状の原因が胃がんではないことを確認することが重要だからです。また、保険診療でピロリ菌の除菌を行うためにも胃カメラが必須になります。胃カメラでピロリ菌感染を疑った所見があったときは下記のいずれかの方法でピロリ菌の診断を行います。
内視鏡検査:胃カメラを使って胃内部を直接観察する、または胃粘膜を少量採取する(生検)という方法です。内視鏡検査についてはこちらの記事「内視鏡検査って何をするの?」に詳しくまとめています。
抗体測定検査:ピロリ菌に感染している場合、抗体をつくる特性を利用して、抗体の有無を調べます。血液、尿、唾液などを用いての検査です。
検便:糞便中に、ピロリ菌の抗原があるかどうかを調べる検査です。便を用いての検査です。
呼気を使った検査:尿素呼気試験法といいます。尿素を含んだ診断薬を内服し、服用前後の呼気(吐いた息)から測定機器で診断を出します。ピロリ菌が二酸化炭素を排出する特性を生かした検査です。
なお、「保険」を使ってピロリ菌の感染を検査できる条件として、以下5つの基準が定められています。
< 保険適応対象患者 >
ヘリコバクター・ピロリ感染症に係る検査については、以下に掲げる患者のうち、ヘリコバクター・ピロリ感染が疑われる患者に限り算定できる。
1. 内視鏡検査又は造影検査において胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者
2. 胃MALTリンパ腫の患者
3. 特発性血小板減少性紫斑病の患者
4. 早期胃癌に対する内視鏡的治療後の患者
5. 内視鏡検査において胃炎の確定診断がなされた患者
健康保険内で検査を受けることができなくても、胃の調子がすぐれない、家系的に心配があるという方は病院に相談し、自費での検査ができます。また人間ドッグや検診などで自費検査を申し出ることもできます。
◆ピロリ菌の除去方法とは? 検査、効果から副作用まで
ピロリ菌の除去方法、それは薬を使った除菌になります。ここでは除菌の適応の病気から内服による除菌、その効果、懸念される副作用までを見ていきます。
【除菌適応の病気】
2000年11月より、胃潰瘍・十二指腸潰瘍についてピロリ菌の除菌療法が保険で認められるようになりました。2010年からは、MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後の患者さんに保険適応が拡大しました。そして、2013年2月21日からついに委縮性胃炎などのピロリ菌に起因した慢性胃炎の患者さんに対しても除菌療法が保険適応となりました。検査適応範囲にヘリコバクター・ピロリ感染慢性胃炎が追加されたことにより、保険を使って検査できる方がぐっと増えました。
【治療・効果】
検査でピロリ菌がいることがわかったら、治療に入ります。治療は内服による除菌です。ピロリ菌の除菌に成功すると、何度も再発を繰り返していた潰瘍の再発がおさえられる 、維持療法(潰瘍が治った後も、再発予防のために薬を飲み続けること)が必要なくなるなどの効果があります。
【注意点】
ただし、除菌の治療は中途半端でやめたりすると、ピロリ菌が薬に対して耐性をもち、次に除菌しようと思っても薬が効かなくなるおそれがありますので、必ず医師の指示通りに薬を飲むことが必要です。
また、除菌治療は1週間ほどで終わりますが、その後も潰瘍の治療は一定の期間必要になることがあります。
【薬と内服時の詳細】
除菌時に内服する薬の詳細をみてみましょう。
ピロリ菌の除菌治療は「プロトンポンプ阻害剤(PPIと略します)+抗生剤(抗生物質)」という組み合わせで行われます。PPIは潰瘍の薬で、胃酸の分泌を強力に抑える働きがあります。
抗生剤はいわゆる抗生物質のことで、菌(ピロリ菌)をやっつける薬です。PPIを一緒に使うことで胃の酸のために抗生剤が働かなくなってしまうのを防ぎます。抗生剤2種類を、PPIとあわせて使うことから「3剤併用療法」と呼ばれます。現在保険で認められているのは、PPIにランソプラゾール、抗生剤にアモキシシリンとクラリスロマイシンという組み合わせで1週間、全部で50錠ほどを飲むことになります。
【ピロリ菌除菌治療の副作用 】
胃潰瘍・十二指腸潰瘍であっても、除菌治療を行うかどうかは主治医の先生が判断されますので、ピロリ菌が検出されたからといって必ず除菌を行うということではありません。患者さんによっては体力的・胃腸の強度的にみて、副作用が予測できる場合もあるからです。
副作用で最も多く見られるのは「下痢・軟便」です。症状が軽い場合には整腸剤などを併用することもありますが、ひどい腹痛や頻回の下痢があらわれたら、すぐに主治医に相談しましょう。
他に、過敏症(発疹など)、肝機能異常、味覚異常などが出ることもあります。治療中、体調が普段と違うことがあれば、自分の判断で治療をやめたりガマンしたりせず、主治医に必ず相談してください。
最近は、抗生剤(クラリスロマイシン)に耐性のあるピロリ菌が30%近くになっていて、除菌の成功率は約70~75%です。一回目の除菌(一時除菌)で除菌できなかった場合、内服する薬を変えて二次除菌を行います。二次除菌まで行うと約90~95%の患者さんに除菌することができます。二次除菌についても主治医と相談してください。
◆胃潰瘍は回避できる!普段からできる、胃に優しい生活5つのポイント
胃潰瘍の予防のために生活の中でできることがあります。5つのポイントにまとめてみましたのでチェックしてみてくださいね。
【1.タバコ】
タバコを吸うと、胃の粘膜に栄養を補給する血液の流れが低下し、胃粘膜の抵抗力が落ちてしまうなど、胃を守る「防御因子」に様々な悪影響をもたらします。まずは禁煙しましょう。
【2.リラックス】
胃・十二指腸潰瘍はストレスの影響を受けます。実際、仕事熱心で真面目な人ほど、潰瘍になりやすいと言えます。仕事は、“少し気楽に、ほどほどに”を心がけましょう。また、入浴をリラックスの場にしたり、のんびり音楽を聴く時間をつくるなど、1日1回でもいいので、リラックスできる環境を整えることも大切です。
【3.飲酒】
胃にやさしいお酒の飲み方というものがあります。お酒は、少量であれば食欲増進やストレス解消に役立ちます。しかし、強いお酒をストレートで飲んだり、すきっ腹に飲んだりすると、胃が荒れることもあります。特にウイスキーなどは、水割り(濃度15%以下が望ましい)にして、おつまみと一緒に飲みましょう。おつまみとしては、ピーナツなどの消化の悪いものより、豆腐やチーズ、野菜、魚などの良質のタンパク質やビタミンを含むものがお勧めです。
【4.適度な運動を続ける】
1日中、家の中でゴロゴロしているとお腹もすかないし、食欲も出てきません。一方、適度な運動は、食欲を増進させるとともに、消化を助ける効果もあります。ウォーキングやジョギング、ストレッチなど、軽めの運動を毎日続けるようにしましょう。続ける、というのがポイントです。
【5.睡眠】
心身をゆっくり休めるためには、睡眠を十分にとることが基本です。また、生活のリズムを整えることも、ストレスを溜め込まない秘訣。そのためには、就寝・起床時間を規則正しくしたいものです。胃は「第2の心(脳)」と言われるほどデリケートな器官です。胃をいたわるためにも、規則正しい生活を。
◆最後に
よく胃の痛む方、気になる方は、がまんせず病院を受診し、検査を受けることをおすすめします。ピロリ菌は薬で治療できます!