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冬のランニングは危険大!走る前に知っておきたい冬の3大症状と予防法

 2016/01/16 コラム 予防
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マラソン

冬のランニングは危険大!走る前に知っておきたい冬の3大症状と予防法

日本のマラソン人口は、その数およそ986万人(2014年、笹川スポーツ財団調査)。お正月には、駅伝やマラソン中継が毎日流れる、日本では人気のスポーツです。

年明けにTVで流れるマラソンや駅伝の放送を見ていると、年末からのイベント続きで寝正月の体をかえりみて、ちょっと走ってみようかな、と思われる方も多いのではないでしょうか。

そんな気持ちになる冬のランニング、実は・・・命にかかわる危険があるんです。

脳と体にランニングが良いことは研究から立証されていますが、走り方によっては危険が高まるランニング。そんなランニングが真に体にいいものになるように、特に今の季節に知っておきたい冬のランニングの基礎知識をまとめました。

マラソンランナーに多い怪我・病気の症状

マラソンが命の危険って脅し過ぎじゃない?と思われる方のために、以下は、東京マラソンで実際に計測された、マラソン中に起こったケガと症状です。

マラソンランナーに多いケガ・病気の症状

1.足の筋肉痛・関節痛 64.7%
2.低体温 13.9%
3.靴ずれ、転倒、まめなどの擦り傷(皮膚の怪我) 11.2%
4.脱水症状 6.6%
5.心肺停止 1.0%
6.その他 2.6%

(東京マラソン財団医療救護委員会 2012マラソンランナー

ここで注目したいのは、ケガ以外に出ている症状「低体温」「脱水」「心肺停止」が、すべて命にかかわる症状であること。特に心肺停止は、比率としては1%ですが、過去9回開催、29万2千人参加者の中で、7件の心肺停止があったとのこと(2015年東京マラソンHP)。ほぼ1回開催に1人、と見ると、かなり高い比率です。

大会に向けて練習をしてきたランナー達でさえ、本番ではこれらの症状が出るということからみても、過去運動をやってきた人や普段練習している人であっても、マラソン中はケガや病気の危険性があると言えます。

では、冬のマラソン中に「低体温」「脱水」「心肺停止」を避け、安全に走るためにはどうしたらいいのでしょうか?

冬という季節の危険性

まず、冬という環境についてみていきましょう。冬は空気が冷たくて走りやすいのですが、空気が乾燥して風もあり、湿度が低いために皮膚の表面から失われる水分量が増えるため、「脱水」になりやすい特徴も同時に持ち合わせています。

夏は汗をかきますし熱中症や脱水症状への知識があるので水分補給に関しては意識的に行われているのですが、冬は夏ほど汗をかかないと思われているため「脱水」という認識は低く、脱水症状も引き起りやすくなります。この認識の甘さから、冬のランニングでは水分の摂取量が減る傾向にあるため脱水傾向が強まります。実は冬も「脱水」になりやすい季節だったのです。

実際に別府大分毎日マラソン大会で行われた冬季マラソンでの選手の生体調査では、調査したすべての選手において走行後の血液濃縮度がかなり上がるという結果が出ています。つまり汗で水分が少なくなって血が濃くなったのです。

さらに注目すべきことには、『完走者と完走できなかった人を比べると、完走できなかった人の方が水分補給が不足していること』がわかりました。脱水で血液が濃縮すると、血液がどろどろになり末梢への血流量が下がってしまいます。そのために末梢まで栄養が行きわたらずパフォーマンスが低下していることが考えられました。マラソン中の病気を予防するだけでなく、マラソンを完走するにも、適切な水分補給を行い「脱水」をなるべく防ぐことが大切なのです。

出典「冬季のマラソンが選手の生体に及ぼす影響完走者と非完走者の血液成分の比較2007

突然死、心筋梗塞

体が「脱水」になってしまうといったいどんなことが起こるのでしょうか?

日常生活においても脱水ぎみになる冬。夜摂取した水分量が少ないと、翌朝の血が濃くなりやすくなります。血液が濃くなったところに、冬の気温低下があると、体は血圧をあげてくるため、血管内が詰まりやすくなります。そこで起こるのが、心臓系の疾患、突然死につながる虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)です。マラソン中に起こっている「心肺停止」の原因も、この虚血性心疾患が多いのです。

心疾患の起こる危険度は、肥満、高血圧、高血糖、高脂血症などなんらかの要因があると乗算的に上昇します。

日本人の死因の1位はがん、2位は心疾患、つまり心臓の異常です。その心疾患の内訳が以下になるのですが、その中でも突然死と呼ばれる「急性心筋梗塞」は年間約4万人みられます。

心疾患の死亡数(内訳)

  • 慢性リウマチ性心疾患▶ 2,308人
  • 急性心筋梗塞▶3万8,991人
  • その他の虚血性心疾患▶ 3万4,894人
  • 慢性非リウマチ性心内膜疾患▶ 1万0,217人
  • 心筋症▶ 3,841人
  • 不整脈及び伝導障害▶ 2万9,739人
  • 心不全▶ 7万1,656人
  • その他の心疾患▶ 5,280人

出典:厚生労働省「平成26年 人口動態統計(確定数)の概況」

急性心筋梗塞は50歳以上の男性、60歳以上の女性に多いとされてきた病気でしたが、最近では働き盛りの男性30代から40代にかけても増えてきている傾向があります。

急性心筋梗塞は、冬の朝起床1時間内に起こることが多いのが特徴です。

心臓への血流が絶える病気なので、治療には性急な処置が必要となり、結果的に死亡率が高くなります。

朝にランニングされる方は多いと思いますが、冬の朝には気温、圧力、水分量などの急激な変化に伴う心臓への負荷も同時に起こっているということ。そのために冬のランニングには十分な準備が必要です。

快適な冬のランを楽しむために知っておきたい基礎知識

この「脱水」、「心肺停止」を防ぐためには、冬のランニングで、何をしたらいいのか?「脱水」「心肺停止」の他、「低体温」を含めて解説と予防法をまとめました。

1、低体温

低体温症とは:人間の体温は産熱(熱を起す)と放熱(熱を出す)バランスで成立しています。極端に気温が低い中で運動を行うと、産熱と放熱のバランスが崩れるため、体温調節ができずに体温が低くなる場合があります。体温が35度を下回ると精神的機能が損なわれ血圧が低下、33度以下で精神錯乱と筋肉の四肢硬直が起こります。標高の高い場所でのランニングも同様に注意が必要です。

・天候をチェック

走る前には温度状況、天候のチェックを行なって急な天候の変化に対応できるように考慮します。

・温度調節できる服装

走行前、走行中、走った後、変わる体温に合わせて温度調節ができるような準備を行なっていきましょう。

・あたたかな飲み物を飲む

実際に体、意識の異常を感じたら、内側からも温めていきます。

・早期判断する

疲労や故障がある中でのランは低体温がすすみやすくなります。おかしいと思ったら無理をしないで中止しましょう。

・栄養補給をする

マラソン中の栄養補給がうまくいっていないと「低体温」になることがあります。前述の調査で完走群と非完走群を比較した結果、血中の栄養素状態に差があるという結果が出ました。完走した選手たちは、血中の糖質が保たれており、非完走の人たちは糖質が低下していました。ここから、レース中の糖質摂取がうまくいくと完走できる可能性があるということが言えます。合わせて走行中は塩分、カリウムなどの栄養素体内レベルが上下します。「低体温」の予防ということだけでなく、レース中の栄養補給は良い結果を出すことにも大切なのですね。栄養補給は走行前から計画的に行うと良いでしょう。

・走った後にも気を付ける

マラソンでは走り終わった直後に低体温になることがあります。手足を動かして温めると心臓に負荷がかかるため、毛布やコートなど温かいものでくるみます。

また十分に水分をとり、着替えを迅速にし、クールダウンの体操を取り入れましょう。

2、脱水

脱水症状とは:水分・解質を含む体液が、汗や下痢などの症状、水分摂取の不足などで欠乏する状態をさします。体重の1.73.3%以上の水分がなくなると血液濃縮が起こり、4%の水分喪失で運動が困難になります。症状としては、だるさ、頭痛、吐き気などが出、進行すると意識を失います。

・ランニング前後の対策

夜に水を飲んで寝る、ジョギング前にコップ1~2杯程度の水を飲みます。

・アルコール禁止

アルコールには利尿作用や細胞の水分を外に排出する作用があり、アルコール摂取中は脱水状態になりやすくなっています。

・走行中の水分補給

冬は脱水になりやすい状態なのは前述のとおり。走行中の水分補給に注意していきましょう。マラソンレース中、選手が採る水分補給量は、発汗量の1/4~半分程度という調査結果があります。十分に水分を採っていると自覚しても実は半分しか補給されていない、というのが現状です。思ったより脱水しているということです。長い距離を走る場合はなおさら水分補給量が不足していきます。

 

水分は一気に大量に取りすぎると下痢になるので、水の取り方は少量ずつ長い時間をかけて取る、給水計画を立ててから走行をする、果物、お味噌汁(具なし)、経口補水液、栄養ゼリーなども活用し対応していきましょう。

3、心肺停止(心疾患)

前述した通りマラソン中に起こっている「心肺停止」の原因は、虚血性心疾患が多いです。心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患では心臓に栄養を送っている血管で血液の流れが滞る状態になってしまいます。心臓への酸素、栄養補給が止まる→強い痛みの発作→心機能停止→全身の血液循環が停止が起こります。普段から健康に気をつけ、自分自身の体の定期的チェックを行うことがマラソン中の「心肺停止」を防ぐために大切です。

・事前検査

東京マラソンでは、ランナーのためのメディカルチェックを進めていました。

http://www.marathon.tokyo/entry/medical2016/healthcare/healthcare-no02.html

事前のデータがあるとジョギングすることでの効果が数値として確認できる利点もあります。肥満、高血圧、高血糖、高脂血症など要因を持っているほど、血管の詰まりにつながるために、マラソンによる疾患の危険が出ますが、症状が2つあると、危険度は二乗していきます。ランニングのために検査を活用していくのは大きな安心につながります。

・脱水を避ける

前述のとおり、冬という季節も、マラソンというスポーツも脱水を引き起こします。脱水になると血液が濃縮され粘度が上がるため、心疾患の危険度も上がります。慣れていても脱水対策は行なっていきましょう。

・ウォーミングアップからはじめる

準備体操を取り入れたり、走る前にウォーキングからはじめるなど、体の血流にいきなり負荷をかけないウォーミングアップからはじめてみましょう。

◆ランニングは体と脳にいいんです

ランニング中の病気についていろいろと書きましたが、ランニングが体にいいという研究を最後にご紹介します。

2014年イタリア学術会議の細胞生物学・神経生物学研究所では「ランニングが新しい神経幹細胞の生産を促して、脳の老化を遅らせ、記憶力のパフォーマンスを向上させること」を証明しました。(WIRED http://wired.jp/2014/03/21/running-brain/

適度に体を動かすとやはり気持ちがいいものです。体とうまく付き合いながら、自分のペースでマラソンを楽しめるといいですね。

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ナオル

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こんにちは。日本を健康にすべく健康惑星からやってきたナオルです。

僕、こう見えて医者なんです。人間の体って面白い。特に、地球上生物の栄養摂取と排泄の仕組みは興味深い(僕たちは食べませんから)。そんなわけで、専門分野は消化器、肛門疾患です。今日も日本中から集めた論文や臨床に基づいた確かな情報をお届けします。

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