下肢静脈瘤

どんな病気?
下肢とは足のこと、静脈とは血管のこと、瘤とはコブのこと。つまり、足の血管にコブができた状態をさします。人間は立ち上がって二足で歩くようになったため、重力の関係で身体で一番下にある脚に血がたまりやすくなり、血管(静脈)が膨れコブ(瘤)を形成してしまうのです。下肢静脈瘤は血管疾患の中で最も発生頻度が高く、軽度のものを含めると成人女性の43%に認められるとの報告があります。女性の就業率が増加しつつある現在の社会状況下では積極的に治療に取り組む必要があると考えます。その他、調理師、美容師、教師、販売、警備などの長時間の立ち仕事の人や、血縁に静脈瘤がある人、出産経験が多い人、妊娠中の人に多く認めます。
体の症状は?
足の違和感があります。足の静脈血管が浮き出てきて目立つようになり、放っておくと、足のだるさやむくみ、かゆみや湿疹となり、歩行困難、最終的には出血、潰瘍にまで発展します。
検査
下肢静脈瘤の診断では、自覚症状や他覚症状の重傷度の把握とともに、治療法の決定のために静脈弁のどこが壊れているのかという部位別診断が重要です。下肢静脈瘤の診断にはCEAP分類(慢性静脈疾患の臨床症状、病因、解剖所見、病態生理所見を世界中で統一された方法で系統的にチェックできる)が広く用いられています。
◆問診:慢性静脈疾患の臨床症状
・症状(痛み、だるさ、重さ、掻痒感、ほてり、腫れ、こむら返りなど)を聴取
・下肢の観察(拡張静脈の種類、範囲、分布、多毛、浮腫、色素沈着、湿疹、 皮下脂肪の硬化、皮膚萎縮、皮膚潰瘍や潰瘍瘢痕の部位や範囲)
◆病因:静脈壁や静脈弁の異常に関連する遺伝的素因、妊娠、職業、先天的形成(血管)異常、外 傷・手術・深部静脈血栓の既往、血液凝固異常の確認
◆解剖所見
身体的診察/超音波検査/静脈造影検査/MRV(MR venography)/3D CT
◆病態生理所見:静脈機能検査にて静脈弁の機能や筋ポンプ機能を評価し、脈波法にて肢の容積を量ることにより静脈血逆流、筋ポンプ機能、静脈血還流を評価する。
【臨床分類(Clinical signs)】 | C0:静脈疾患を認めない
C1:毛細血管拡張または網目状静脈 C2:静脈瘤 C3:浮腫 C4a:色素沈着や湿疹 C4b:皮膚脂肪硬化や白色皮膚萎縮 C5:治癒後の潰瘍 C6:活動性潰瘍 S:症状あり A:無症状 |
【病因分類(Etiologic classification)】 | Ec:先天性
Ep:一次性 Es:二次性 En:原因が明らかでない |
【解剖的分類(Anatomic distribution) 】 | As:表在性静脈
Ap:穿通枝 Ad:深部静脈 An:同定できない |
【病態生理分類(Pathophysiologic dysfunction)】 | Pr:逆流
Po:閉塞 Pr,o:逆流と閉塞 Pn:不明 |
【静脈の18領域について】 | ◆表在静脈
1. 毛細血管や網目状静脈 2. 大伏在静脈(膝上) 3. 大伏在静脈(膝下) 4. 小伏在静脈 5. 伏在静脈以外 ◆深部静脈 6. 下大静脈 7. 総腸骨静脈 8. 内腸骨静脈 9. 外腸骨静脈 10. 骨盤内 11. 総大腿静脈 12. 深大腿静脈 13. 浅大腿静脈 14. 膝窩静脈 15. 下腿の静脈 16. 筋肉枝(腓腹、ヒラメ静脈) 17. 大腿 18. 下腿 |
治療・処置
現在、下肢静脈瘤の治療法には様々な方法があります。外科的治療ではない日常生活上の注意や弾性ストッキングなどの圧迫療法は、「静脈瘤」そのものの改善を期待できるものではないものの、症状の増悪や合併症の予防に大切です。
1) 日常の生活での注意
もっとも大事なことは下肢がうっ血を起こさないようにする生活や、うっ血させてしまった状態を速やかに解除させる生活です。
心がけたいこと
長時間の立位を避け、時々下肢を挙上する/歩行や足踏みを行い静脈血が心臓に戻りやすいように促す/就寝時に脚を上げて寝るようにする/スキンケア(脚を清潔に保ち感染や虫さされに注意する)/正座などによる圧迫を避ける
2) 圧迫療法(保存的治療)
医療用に作られた弾性ストッキングがあります。下肢静脈瘤や静脈血栓症になどの静脈系還流障害の病気には大事な医療品です。脚関節より中枢になるほど、段階的に圧が低くなるように作成されています。これは、静脈還流を促進させるためです。患者の病態により圧のかけ方が異なり、医師の指示で適切なタイプの選択が必要です。弾性ストッキングは外側から圧迫力をかけ血液循環を改善しようとしてあるため、普段はいている靴下のように簡単に履けるようなものではありません。正しい履き方で履くことにより、段階的な圧迫が効率よく得られます。
現在、大部分の弾性ストッキングは非弾性糸であるナイロン(ポリアミド)と弾性糸であるポリウレタンがおおよそ7:3の比率で使われています。
弾性ストッキングはその圧迫圧が重要で、その強さによってそれぞれの疾患における使い分けが必要です。
圧迫圧 | 使用病態 |
20mmHg未満 | むくみ 静脈瘤の予防 手術時などの静脈血栓予防 ストリッピング手術後 |
20~30mmHg | 軽度静脈瘤 高齢者静脈瘤 |
30~40mmHg | 下肢静脈瘤 静脈血栓後遺症 硬化療法後 軽度リンパ浮腫 |
40~50mmHg | 高度浮腫や皮膚栄養障害のある下肢静脈瘤、静脈血栓後遺症、リンパ浮腫
|
50mmHg以上 | 高度リンパ浮腫
|
3) 硬化療法
硬める薬剤を静脈瘤の中に注入し、静脈の内側の壁と壁をくっつけてしまったり、血栓(血のかたまり)をつくり詰めてしまう方法です。 ※すべての下肢静脈瘤をこの方法のみで治療することはできません。
硬化療法の適応
ストリッピング術後残存静脈瘤
・伏在静脈本幹に逆流のない分枝静脈瘤
・網目状静脈瘤
・クモの巣状静脈瘤
・拡張蛇行が軽度な伏在静脈瘤
硬化療法の薬剤
洗浄性硬化剤(detergent solutions):洗浄性硬化剤は血管内の内皮細胞と結合することにより血小板、フィブリンを付着させ静脈内の血栓性閉塞をもたらします。
ア) ポリドカノール(ポリドカスクレロール®:PS)
局所麻酔薬として開発されたがその静脈硬化作用が着目され下肢静脈瘤の治療や痔核の治療に使用されてきました。正常組織の傷害には可逆的に治るため比較的安全に使用されるが針先から遠くなると作用は弱まり深部静脈での効力は弱くなっています。
4) 高位結紮法
弁不全をおこしている静脈と大元の静脈の合流部を縛ったうえで、切り離してしまう治療法です。
5) 静脈瘤切除術(Stab Avulsion法)
静脈瘤のある場所に3mm程度の小さなキズをつけ、特殊な道具を用いて直接静脈瘤を取り出す方法です。ごく小さなキズは残りますが、膨れた静脈瘤を取り除く方法ですので確実で再発のない治療方法です。膝までのストリッピング手術やレーザー手術と同時に、ふくらはぎの目立つ静脈瘤を切除することでよりきれいな足を取り戻せます。
6) ストリッピング手術(伏在静脈抜去術)
下肢静脈瘤の根治的な治療法として古くから行われている手術方法です。弁不全(壊れている弁)を静脈ごと引き抜いてしまいます。特にその後の歩行や痛みは影響しません。再発率が低く、確実な治療法ですがまわりにある知覚神経にダメージを与えることがありますので、注意が必要です。ストリッピングには次のものがあります。
ⅰ)大伏在静脈瘤ストリッピングⅱ)小伏在静脈ストリッピングⅲ)選択的ストリッピング
7) レーザーによる焼灼
現在最も標準的に行われている手術です。壊れた静脈の中にレーザーファイバーを挿入し、内側から焼灼(焦がす)して閉塞させる治療法です。2011年より保険適応となり、認定を受けた施設のみで標準的に受けて頂ける治療になりました。長所は、キズがつかないこと、太もものつっぱりやひきつれが少ないことです。短所は、手術後1-2週間程度ふとももの痛みが生じることです。 保険適応になっているレーザーはELVeS 980nmレーザーという機種のみになっています。この機種は最新のレーザーに比べると手術後の痛みが強いといわれています。この機種以外のレーザー治療をお望みの方は自費診療となります。
医師に相談する方はこちらを参考にしてください。
▶ 【日本全国】下肢静脈瘤専門医のいる病院