ソケイヘルニア(脱腸)・大腿(だいたい)ヘルニア

どんな病気?
ソケイヘルニア、大腿ヘルニアともお腹にある小腸などの臓器が、太ももの付け根の筋膜の間から皮膚の下に出てくる病気です。昔から俗に脱腸と呼ばれています。ソケイ部とは足の太ももの付け根の部分を指します。本来は、お腹の中にある臓器(主に小腸)が筋肉層の断裂により飛び出すことにより起こります。筋肉層の断裂は、主に下記3つの原因があります。
- 先天性・・・ 産まれつき筋肉が弱い状態
- 加齢性・・・ 加齢に伴い筋肉が裂けた状態、特に60歳以上の男性
- 職業性・・・ 職業(スポーツ選手、重いものを持つ)に伴う筋肉の脆弱化
その他、日常生活で、咳をよくする人(喘息、慢性肺疾患)、妊娠している人、過激な運動をする人、便秘の人、肥満の人にも多く認めます。
足の付け根に起こるヘルニアには3つのタイプがあります。
1、外ソケイヘルニア(間接型):ほとんどの幼児と成人が発症するのが、外そけいヘルニアです。睾丸を養う血管や精管を貫く穴(女性の場合は子宮を前方へ引っ張る靭帯)を内ソケイ輪といいます。その穴の隙間から腹膜をかぶったままお腹の中の内容物が出てきてしまいます。ソケイヘルニアの多くはソケイ部の外側より出てくるこのタイプです。
2、内ソケイヘルニア:中年以降の男性に多いのが、内そけいヘルニアです。内ソケイ輪を通らず筋肉層(横筋筋膜)の断裂部から直接お腹の中の内容物が腹膜をかぶったまま出てきてしまいます。高齢者に多く見られソケイ部の内側寄りから出てきます。
3、大腿ヘルニア:中年以降の女性に多く見られるのが、大腿(だいたい)ヘルニアです。ソケイ部より少し大腿部(足のほう)よりにある大腿管と呼ばれる管を通ってお腹の中の内容物が出てきてしまいます。中年以降の女性(特に出産された方)に多く見られます。ソケイヘルニアの中では最も嵌頓しやすく注意が必要です。嵌頓(かんとん)状態とは、飛び出た脱腸(そけいヘルニア)部分が、筋肉でしめつけられ戻らなくなった状態のことをいいます。 腸が嵌頓を起こすと、腸の中を食べ物が流れていかなくなってしまい腸閉塞を起こします。また、しめつけられた腸に血液が流れなくなり、腸の組織が死んでしまい(壊死)、命に関わる場合もあります。
体の症状は?
立ち上がった状態で、お腹に力を入れた時にソケイ部に柔らかな腫れを感じます。指で押さえると引っ込むほどのものです。これが次第に不快感から痛みになり、腫れが硬くなったり、引っ込まなくなったり(ひきつれ感)します。一度断裂した筋層は自然には戻りません。手で押し戻し、楽になっているうちは良いのですが、元に戻らない状態(かんとん)になると、強い痛みがあります。また脱出した腸管に血が通わなくなり腐ってしまうため、緊急手術が必要となります。
検査
触診です。男性の場合、陰嚢より指を挿入し外ソケイ輪の開大を見ます。そのまま指を入れながら腹部に力を入れていただきます。お腹に力を入れると、ヘルニアが顕著に飛び出してくるのが確認できることが多いためです。
治療・処置
ヘルニアは自然治癒することはありません。ヘルニアバンドなどにより、常に圧迫している方もいますが、基本的には手術以外に治療方法はありません。放っておくと、はみ出しているもの(腹膜や腸の一部)の重さにより、どんどん大きくなることが多いようです。ただ、命に係わることは少ない病気ですから、わずかな出っ張りで特に痛みがない場合、注意しつつ経過を見ていくのが一般的です。手術治療により、筋肉の裂けた部位の修復が必要となります。
手術は、腰椎麻酔が一般的です。
ソケイヘルニアの手術は短期入院手術が可能です。何年か前のように1週間も入院する必要はありません。
日帰り手術は「局所麻酔で静脈麻酔併用」か「全身麻酔(ラリンゲルマスク)」の手術、1泊以上の入院では「腰椎麻酔」か「全身麻酔(ラリンゲルマスク)」の手術です。
腰椎麻酔は背中に針を刺されるときだけチクッとするだけです。手術中に痛みは伴いません。術後3時間程度で麻酔も切れ、普通に足も動くようになります。全身麻酔は麻酔科の専門医の監視の下に行われれば最も安全で万能な麻酔です。
小児においては、未熟児・新生児で嵌頓(かんとん)の危険性が高いため、一般的には身体の生理機能が安定する3-6ヶ月以降での手術が望ましいとされています。手術は全身麻酔で行われますが、小児のソケイヘルニアは一般的に鞘状(しょうじょう)突起の閉鎖不全が原因であり、後ろの横筋筋膜の補強は必要ないとされています。ソケイ管内の癒着や炎症などで睾丸の発育不全や精管の閉塞などを来たすこともありうるため、ヘルニア門が巨大な場合を除いて、多くの手術操作を加えないことが望ましいのです。