甲状腺クリーゼ(こうじょうせんくりーぜ)

【どんな病気?】
クリーゼとは、内分泌の病気が原因で、短時間の間に生命に影響を与えるほど重篤な状態になるものを言います。
甲状腺クリーゼとは、甲状腺の病気で命にかかわる重篤な状態になるものです。甲状腺機能亢進症の治療中にさまざまな原因で甲状腺ホルモンが過剰状態となり、短時間で命にかかわることが起こってきてしまいます。
原因として、抗甲状腺薬の不規則な服用や中断、甲状腺手術、甲状腺アイソトープ治療、過度の甲状腺触診や細胞診、甲状腺ホルモン製剤の大量服用などがあります。その他、感染症、甲状腺以外の臓器手術、外傷、妊娠・分娩、副腎皮質機能不全、ヨウ素系造影剤投与、脳血管障害、肺血栓・塞栓症、虚血性心疾患、抜歯、強い情動ストレスや激しい運動などでも引き起こされることがあります。
甲状腺クリーゼの発生頻度は疑いを含めると「日本甲状腺学会の全国調査」では年間10万人あたり0.2人でした。発生頻度は極めて少ないものですが、適切な対応を行わず、放置すると非常に危険で急速に死に至ります。「日本甲状腺学会の全国調査」では甲状腺クリーゼの致死率は約10%で、死因は多臓器不全、心不全、腎不全、呼吸不全、不整脈などがありました。
参考として、「日本甲状腺学会」での甲状腺クリーゼの定義を記載します。
「甲状腺クリーゼとは、甲状腺中毒症の原因となる未治療ないしコントロール不良の甲状腺基礎疾患が存在し、これに何らかの強いストレスが加わった時に、甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代償機構の破綻により複数臓器が機能不全に陥った結果、生命の危機に直面した緊急治療を要する病態をいう。」
【体の症状は?】
発熱、発汗、動悸、頻脈、不安、不穏などを起こします。進行すると、意識障害、振戦、運動過多、下痢、脱水、循環不全を起こし命の危険が起きてきます。
日本甲状腺学会の診断基準では、「不穏、せん妄、精神異常、傾眠、けいれん、昏睡」などの中枢神経症状を必須として、発熱(38度以上)、頻脈(130回/分以上)、心不全症状、消化器症状のどれか1つを認めた場合、または、中枢神経症状を認めず、中枢神経症状以外で3つを認めた場合に甲状腺クリーゼの確実例としています。
【検査】
血液検査:
甲状腺機能亢進症の所見(甲状腺ホルモンの上昇)が認められます。
【治療・処置】
致死率が高い病気なので、疑いがあった場合にはすぐに治療を開始することが重要です。心身を安静にし、冷却で体温を低く維持し、直ちに治療を開始します。治療は甲状腺ホルモン産生を押さえ、甲状腺ホルモン作用を弱めることを目指しながら、全身管理と誘因除去を行います。具体的には、βブロッカー投与、輸液、全身冷却のほか、ヨウ素、ステロイドなどの投与、気管確保などを行います。